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個人再生の説明でよく使われる「最低弁済額」という言葉は、民事再生法の条文に出てくる用語ではありません。条文は「これ以上返してください」という書き方ではなく、再生計画で返すと決めた総額(計画弁済総額)がある額を下回るときは、裁判所が再生計画を認可しないという、不認可事由の形で書かれています。この記事では、その民事再生法231条2項の原文と、あわせて働くもう2つの下限(清算価値・可処分所得)を、e-Gov法令検索の本則と裁判所・法テラス・日弁連の公表情報だけで確認します。「あなたの借金がいくらになるか」は扱いません。それは資料を見て行う個別の判断であり、弁護士・司法書士の仕事です。
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1. 条文の建て付け|「下限を下回ると不認可」という書き方
民事再生法231条1項は、小規模個人再生で再生計画案が可決された場合、174条2項(住宅資金特別条項を定めた案は202条2項)または同条2項の場合を除いて再生計画認可の決定をすると定めています。そのうえで231条2項が、小規模個人再生に固有の不認可事由を5つ並べています。
つまり、いわゆる「最低弁済額」は①231条2項が定める計画弁済総額の下限と、②174条2項4号(再生債権者の一般の利益に反するとき=清算価値)という、2つの別々の関門から成り立っています。給与所得者等再生ではさらに③が加わります(第5節)。
2. 民事再生法231条2項の原文
e-Gov法令検索で民事再生法(平成11年法律第225号)の本則を確認しました(2026年9月2日)。231条2項の柱書と各号は次のとおりです。
小規模個人再生においては、裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合にも、再生計画不認可の決定をする。
| 号 | 条文(原文・かっこ書きは要旨に短縮した箇所があります) |
|---|---|
| 1号 | 「再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがないとき。」 |
| 2号 | 無異議債権の額および評価済債権の額の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額、84条2項に掲げる請求権の額を除く)が五千万円を超えているとき。 |
| 3号 | 2号の総額が三千万円を超え五千万円以下の場合において、当該無異議債権および評価済債権(=以下「基準債権」)に対する再生計画に基づく弁済の総額(=以下「計画弁済総額」)が、当該総額の十分の一を下回っているとき。 |
| 4号 | 2号の総額が三千万円以下の場合において、計画弁済総額が「基準債権の総額の五分の一又は百万円のいずれか多い額(基準債権の総額が百万円を下回っているときは基準債権の総額、基準債権の総額の五分の一が三百万円を超えるときは三百万円)」を下回っているとき。 |
| 5号 | 再生債務者が債権者一覧表に住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨の記載をした場合において、再生計画に住宅資金特別条項の定めがないとき。 |
民事再生法(平成11年法律第225号) https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000225(2026年9月2日確認・本則から抽出)
「基準債権」と「計画弁済総額」は条文が定義した言葉です
3号のかっこ書きが、無異議債権および評価済債権から「別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権」と「84条2項各号に掲げる請求権」を除いたものを基準債権と定義し、それに対する再生計画に基づく弁済の総額を計画弁済総額と定義しています。2号のかっこ書きにあるとおり、住宅資金貸付債権の額はこの総額から除かれます。
3. 条文の数字をそのまま並べた区分表
231条2項3号・4号の文言を、基準債権の総額の大きさごとに計算して並べると次のようになります。この表は条文に書かれた計算をそのまま並べたものであって、条文にこの形の表があるわけではありません。
| 基準債権の総額 | 計画弁済総額がこれを下回ると不認可(条文上の下限) | 根拠 |
|---|---|---|
| 100万円未満 | 基準債権の総額(=その全額) | 4号かっこ書き前段 |
| 100万円以上500万円以下 | 100万円 | 4号本文(5分の1が100万円以下のため「いずれか多い額」=100万円) |
| 500万円超1500万円以下 | 基準債権の総額の5分の1 | 4号本文 |
| 1500万円超3000万円以下 | 300万円 | 4号かっこ書き後段(5分の1が300万円を超えるため) |
| 3000万円超5000万円以下 | その総額の10分の1 | 3号 |
| 5000万円超 | (そもそも小規模個人再生の対象外=2号の不認可事由) | 2号・221条1項 |
なお、小規模個人再生を利用できる人の要件そのものは221条1項が定めており、「個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が五千万円を超えないもの」と規定されています(2026年9月2日確認)。
裁判所の説明も同じ区分です
裁判所の「裁判手続 民事事件Q&A」は、「個人再生手続では、どれくらいの額を返済しなければならないのですか。」という設問に次のように答えています(2026年9月2日確認)。
①3年間(最長でも5年間)にわたり分割して、②無担保債務の総額が3000万円以下の場合には借金等の総額の5分の1(ただし、100万円以上300万円以下の範囲)以上、無担保債務の総額が3000万円を超え、5000万円以下の場合には無担保債務の総額の10分の1以上、かつ、③債務者が自分の財産を処分して返済に当てる場合の額(清算価値)以上の返済を行う必要があります。
裁判所「裁判手続 民事事件Q&A」 https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_minzi/index.html(2026年9月2日確認)
4. もう1つの下限|清算価値(174条2項4号)
231条2項の区分をクリアしても、それだけでは足りません。231条1項が引用する174条2項は、次の場合に再生計画不認可の決定をすると定めています(原文・4号)。
再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。
条文の言葉は「再生債権者の一般の利益」です。「清算価値」という語は民事再生法の条文には出てきません。裁判所は自らのページで、この点を次のように説明しています(2026年9月2日確認)。
ただし、再生計画の内容は、原則として3年間で債務の一定割合を分割して返済するもので、その返済総額が、債務者が自分の財産を処分して返済に当てる場合の額(清算価値)を上回らなければなりません。
裁判所「個人再生」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_25_18/index.html(2026年9月2日確認)
日本弁護士連合会も、個人再生手続の参考書式(東京地方裁判所モデル)として「清算価値算出シート」と「財産目録」を公開しています(2026年9月2日確認)。清算価値が申立ての実務で個別に算出されるものであることは、この書式の存在からも確認できます。ただし算出方法の具体的な基準は書式の中身の問題であり、当サイトでは扱いません。また同ページには、書式を使う前に申立てを予定している地方裁判所へその裁判所の利用書式を問い合わせるよう求める注記があり、書式の運用が地域ごとに異なることが示されています。
日本弁護士連合会「個人再生手続参考書式」 https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/oyakudachi/kojinsaisei.html(2026年9月2日確認)
5. 給与所得者等再生には第3の下限がある|241条2項7号
給与所得者等再生では、241条2項が不認可事由を定めており、その7号が、計画弁済総額について次の計算による額以上でなければならないとしています(要旨)。
- 同号イ〜ハの区分に応じて算出した1年間当たりの収入額から所得税等に相当する額を控除した額から、
- 再生債務者およびその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額を控除し、
- その額に2を乗じた額(=いわゆる可処分所得の2年分)
同条3項は、この「1年分の費用の額」について「再生債務者及びその扶養を受けるべき者の年齢及び居住地域、当該扶養を受けるべき者の数、物価の状況その他一切の事情を勘案して政令で定める。」と規定しています。当サイトはこの政令の額を実査していないため、具体的な金額は記載しません。
また241条2項5号により、給与所得者等再生でも231条2項2号から5号までの事由(=上の区分表)が同じく不認可事由になります。同項2号は「再生計画が再生債権者の一般の利益に反するとき。」=清算価値の関門です。つまり給与所得者等再生では3つの下限をすべて満たす必要があるという構造です。裁判所も「給与所得者等再生では、その3つに加えて、債務者の年収額から生活に必要な費用を差し引いた額(可処分所得額)の2年分以上の額を返済することも必要になります。」と説明しています(2026年9月2日確認)。
6. 返済の期間|229条2項2号
下限とセットで条文に書かれているのが、分割払いの期間です。民事再生法229条2項は、再生債権者の権利を変更する条項における債務の期限の猶予について次のように定めています(原文・要旨)。
- 1号=「弁済期が三月に一回以上到来する分割払の方法によること。」
- 2号=最終の弁済期を再生計画認可の決定の確定の日から三年後の日が属する月中の日とすること。「特別の事情がある場合には、再生計画認可の決定の確定の日から五年を超えない範囲内で」三年後の日が属する月の翌月の初日以降の日とすることができる。
244条により、229条は給与所得者等再生にも準用されます。
7. 額を減らせない債権がある|229条3項
229条3項は、次の請求権については当該再生債権者の同意がある場合を除き、債務の減免の定めその他権利に影響を及ぼす定めをすることができないと規定しています(要旨)。
- 再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 再生債務者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(1号を除く)
- 夫婦間の協力および扶助の義務、婚姻から生ずる費用の分担の義務、子の監護に関する義務、扶養の義務、およびこれらに類する契約に基づく義務に係る請求権
法テラスの公式FAQも、個人再生について「残りの債務(養育費・税金など一部の債務を除く)などが免除される」「ただし、養育費・税金など一部の債務は免除されません。」と説明しています(2026年9月2日確認)。
法テラス「個人再生とは何ですか。」 https://www.houterasu.or.jp/site/faq/syakkin-sonota-001.html/「個人再生にはどのような種類のものがありますか。」 https://www.houterasu.or.jp/site/faq/syakkin-sonota-002.html(いずれも2026年9月2日確認)
8. この記事で扱わないこと
基準債権の総額がいくらになるか、清算価値がいくらになるか、可処分所得がいくらになるかは、いずれも資料を見て個別に算出する事項です。当サイトはその計算も見通しも示しません(そのため「減額シミュレーター」の類も置いていません)。また、住宅ローンがある場合の扱いは住宅資金特別条項、手続そのものの位置づけは個人再生とはと債務整理の4つの方法で扱っています。手続を選ぶ前に、相談先が実在するかを公式検索で確認する手順と、実在確認ナビもあわせてご覧ください。費用が払えない場合は法テラスの立替制度と立替基準額を確認できます。今の返済がどうなっているかを整理したい場合は返済の計算ツールを使えます。
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よくある質問
「最低弁済額」は法律用語ですか?
民事再生法の条文にこの語はありません。条文は231条2項で、計画弁済総額が一定の額を下回るときを再生計画の不認可事由として定めています。当サイトはこの記事で「条文上の下限」という言い方をしています。
下限は1つではないのですか?
小規模個人再生では231条2項の区分と、174条2項4号(再生債権者の一般の利益=裁判所のいう清算価値)の2つがあります。給与所得者等再生ではこれに241条2項7号の可処分所得2年分が加わります。裁判所も「①…②…かつ、③…」と3つを並べて説明しています(2026年9月2日確認)。
住宅ローンも総額に含めて計算するのですか?
民事再生法231条2項2号のかっこ書きは、無異議債権および評価済債権の額の総額から住宅資金貸付債権の額等を除くと定めています。221条1項の5000万円の要件も同様に住宅資金貸付債権の額を除いた総額です。
返済期間は3年と決まっているのですか?
229条2項2号は、最終の弁済期を再生計画認可の決定の確定の日から3年後の日が属する月中の日とし、特別の事情がある場合には5年を超えない範囲内で延ばせると定めています。裁判所も「3年間(最長でも5年間)」と説明しています(2026年9月2日確認)。
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